森裕之教授(立命館大学政策科学部)の講演「大阪の政治と堺市政の課題」

2016年2月12日

去る1月27日に開催いたしました「竹山おさみの市政報告と新年互礼の会」第1部で、森教授(立命館大学政策科学部)に講演をしていただきました。ご参加いただけなかった方々にもぜひ、その講演内容をご理解いただきたいと思い、こちらでご紹介させていただきます。

 

「大阪の政治と堺市政の課題」
立命館大学政策科学部 森裕之教授
1. 維新政治を振り返る

大阪の政治は日本全体の縮図ともいえます。そこには、わが国の国民の政治観や民主主義思想が先鋭的なかたちで見られるからです。その意味では、維新政治は大阪という地域において国民のもつ深層を浮き彫りにしたといってよいでしょう。
それでは、維新政治による地方自治とはどのようなものだったのか。第一は、民主主義=投票という純朴な見方を流布したことです。そこには、多様で複雑な人々や社会の関係を熟議という手段でより良いものにしていくという本来の民主主義観が見られません。
第二は、自治体政策の争点を単一化することです。これは大阪都構想(=大阪市の廃止・分割構想)に象徴的にあらわれています。中身のよくわからないものを「白か黒か」というかたちで投票によって選択を迫る。これは多様な考え方を尊重するというベースに立ち、「落としどころを探っていく」という民主主義の営為の大切さを看過するものです。
第三は、競争原理と自己責任です。これは「負け組は自分で責任を持つべきだ」という点でみれば表裏一体の考え方です。そもそも、政府や自治体が「自己責任」という考えを据えると社会は成り立ちません。維新の地方自治観は個人の規範と政治の規範を同一視する傾向が強いものです。
それでは、このような維新政治はそもそも政治の世界をどのように見てきたのでしょうか。まず、「政治」に対して、彼らは「詭弁と嘘がまかりとおる世界」と考えてきたのではないかと思います。たとえば、2011年11月の大阪府・市ダブル首長選挙では、「大阪市をバラバラにはしません」「大阪市は潰しません」「24区、24色の鮮やかな大阪市へ」などと書いた法定ビラがまかれました。しかし、彼らは大阪市の廃止・分割を実相とする大阪都構想を掲げていたのです。こんなことが平気でまかり通るとみているところに、彼らの政治観が如実にあらわれています。これと関係があるのですが、彼らは「住民」を「お人好しで、物事を熟議しない存在」と考えてきたのではないでしょうか。政治家が罵詈雑言を吐いても、反社会的な行動をとっても、住民というのはすぐに忘れてくれるとみてきたのだと思います。
私は大阪都構想には政策としての合理性が全くないと思っています。彼らが掲げる「二重行政」についても、大阪都構想によって浮くお金は2億円程度であり、それに対して初期投資だけで600億円となり、それを回収するだけで300年もかかります。さらにそれ以外にも年間20億円ものランニングコストも発生する。大阪市が豊かになるなどというのは根拠がありません。にもかかわらず、彼らは大阪都構想を「政策」として掲げてきた。その理由は、「政策」を住民のためではなく、「自分たちの権力のため」に位置づけているのだと思います。さらに「議会」については、「対立をつくりだすことで自らを勝者と見せかける場所」として扱ってきたように思えます。

 

2. 2013年堺市長選挙

2013年9月に堺市長選挙が行われ、維新の候補者であった西林氏をやぶり、いまの竹山市長が二期目を担うことになりました。竹山市長の得票は西林氏のそれを5万票以上上回り、得票率は58.5%にのぼりました。また投票率が50%を超えたのも42年ぶりのことでした。

このときに西林氏が市長選で勝っていれば、大阪はすでに維新政治一色になっていたといえます。それぐらい維新の政治力は一貫して強いものがあります。2013年の堺市長選挙はそれを土俵際で食い止めた歴史的出来事だったのは間違いありません。
このときの選挙の戦い方はその後の大阪市の住民投票等への指針となりました。自民党、民主党、共産党、社民党などが竹山氏を支持し、公明党も自主投票ながら8割の支持者が竹山氏に投票しました。無党派層の7割も竹山支持へとまわります。選挙スローガンは「堺はひとつ!堺をなくすな!」であり、都構想の本質を射貫いた主張でした。
これに対して、維新側は「堺が無くなる詐欺に騙されないでください、嘘八百に騙されないでください」などと嘘にまみれた罵詈雑言を繰り広げました。また、いわば「堺防衛隊」として戦っていた各政党を「こんな談合、見たこと、聞いたことない」と有権者のマイナス感情に火を付けようとしました。そのような中での堺市長選挙の勝利は画期的なものだったのです。

 

 

3. 大阪都構想の住民投票

2015年5月12日に大阪都構想の住民投票が行われます。産経新聞等が行った事前調査では、「賛成」「反対」のそれぞれの理由は次のようなものでした。

<賛成>

「思い切った改革が必要だから」(41.0%)

「二重行政が解消されるから」(27.7%)

<反対>

「メリットが分からないから」(32.1%)

「住民サービスが良くならないから」(14.6%)

私が何よりも着目したのは、「思い切った改革が必要だから」という賛成理由の多さです。もし、住民が本当にこのような冒険主義で大阪市をつぶしてしまおうというのであれば、社会として極めて憂慮すべき事態です。中身を問わずに、とにかくやってしまおうという思想の蔓延は、そこに人間としての理性心が働いていないという点で最も警戒すべき状況だからです。いまの政治全体がこういった住民感情を引き起こしていることを我々はもっと深刻に受け止めなければならないし、そういった暴挙へと社会が走っていくことを食い止めないとなりません。

さて、実際の住民投票では僅差ではあったとはいえ、大阪都構想への反対が賛成を上回りました。これは住民が本当に草の根での活動や学習を積み重ねた結果であり、偉大な勝利であったと思います。堺市の市長選挙のときと同じく、政党の枠を超えた反維新・反都構想の一点連携で戦い、また住民団体や世代などあらゆる垣根を超えた連帯が見られました。医療団体、商業団体、文化団体などが次々と反対を表明したことも重要でした。
私が大阪市の行政区別に住民投票の結果を分析してみると、賛成上位区と反対上位区で著しい特徴があることがわかりました。賛成上位区(北区、西区、淀川区、中央区など)では、一人世帯が多く、転出率も高い。さらに高所得層が多いという特徴もあります。それに対して反対上位区では、家族世帯が多く、転出率がきわめて小さい。つまり、賛成に回った層は、若年の「勝ち組」であり、コミュニティとの関係が希薄であるという特徴があるのです。彼らは稼得した所得から高い税金を支払っている一方で、福祉や教育などの行政サービスを受けているという意識がほとんどない。彼らは民間とは異なる公務員や「負け組」である貧困者に対して敵対意識を持ちやすい層であり、所得を生み出さない高齢者に対しても冷ややかな眼差しを向けやすいと思われます。
つまり、競争原理主義によって、住民の間にはしっている感情的亀裂が大阪都構想の住民投票でははっきりと出てきたのです。このことの示唆は非常に重要であり、堺においてもこうした住民感情をふまえながら、住民の連帯やコミュニティを育む施策を展開していくことが肝要であることを示しているのです。

 

4. 大阪ダブル選挙とその後の大阪市

2015年11月の大阪ダブル選挙では、知事選挙・市長選挙ともに維新の候補者が勝利しました。それも得票差ではかなりの差が開きました。
維新側は「過去に戻すのか、前に進めるのか」という従前の二者択一を迫る選挙スローガンを掲げ、反維新側は「まっとうな大阪を」というスローガンを展開します。後者のスローガンは維新政治を見てきた関係者には非常にわかりやすかったのですが、有権者の心には落ちなかったといえます。政策がまとめきれなかったことに敗因の一つがあったのは確かです。

2015年12月14日の朝日新聞の世論調査によれば、都構想再挑戦に対し、大阪市民の59%が賛成としました。これの解釈は慎重にしなければなりませんが、同じ調査で橋下氏に対する高い評価の理由として「政策発信力がある」「大阪を変える力量がある」が最も多かったことを重ね合わせてみると、やはり維新政治に賛成している住民は中身ではなく突破力を期待しているのだと思われます。この点はいまの政治に対する住民の評価軸を見事に示しており、各政党も十分踏まえなければならないものです。それは、同調査で、大阪府・大阪市・堺市が二重行政の検討のために設置している大阪戦略調整会議に対する問いで「評価しない」が大阪市民の62%を占めている点にもあらわれています。住民は、遅々として進まない政治の話しあいに対してマイナスの評価を与えているのです。ただし、これには維新側が最初から「ポンコツ会議」などとレッテルを貼って、政争の道具にしてきたことも影響しているのは確かでしょう。

吉村市政は、副首都推進本部の設置、ヘイトスピーチ規制条例、民泊条例、5歳児の教育費無償化、学校給食の充実、特別養護老人ホームの拡充、大学統合、地下鉄・バス民営化などを推し進めています。このうち、副首都推進、大学統合、交通民営化を除けば、他は原則として基礎自治体が判断すべきものでしょう。大阪市はいまは基礎自治体ですが、それを廃止して新たに複数の基礎自治体(特別区)を設置する大阪都構想を実施すると言っています。このように考えれば、いまの市政は衣の下に鎧を着て政治をしているのではないかと思います。つまり、将来の特別区が考えるべきことを大阪市が「先食い」しており、いざ特別区になった場合にはそれぞれに継続するかどうかを判断させるというやり方になっています。私にはこれは不誠実な政治に思えます。
副首都推進本部では、「政治とカネ」で東京都知事を辞任したばかりの猪瀬直樹氏を特別顧問に据えています。これはやはり住民を「お人好し」だと見ているのだと思います。また、道頓堀にプールを作ったり、大阪城に空中回廊をつくるなどと言っていた堺屋太一氏は今は「10万人の大盆踊り」を行うべきだと提言しています。「またか」という感がぬぐえません。

 

 

5. 歴史都市・堺をまもる

いまの堺市政には、都構想の議論にあたら振り回されることなく、市民の一体感をつくりだしていくような実直で優れた政治を進めてほしいと思います。そのプロセスにおいて、堺市を残すことの大切さを市民一人ひとりに理解してもらうことが必要です。
いま世界の都市は品格のある自治体を目指しています。それは、荒々しい経済と権力が跋扈するのではなく、環境と文化と自治の街でなければなりません。堺市には、歴史的につちかわれた産業・社会・文化があり、美しい街並みや環境も残されています。交通も他都市に比べて便利で移動も容易です。自由な空気のもとで、さまざまな企業活動や社会活動も行われています。
泉北ニュータウン地域リノベーションや商店街空き店舗の再活性化などにおいては、優れた公民協働の息吹を感じることができます。
いまの大阪の政治のスピードを考えると、堺市政にもスピード感が求められているかもしれません。しかし、実直な取り組みを怠ると、堺市にとって最も大切な市民性の醸成が脅かされることになります。
歴史都市である堺が消滅するなどということは人類史的な愚挙です。
堺市をまもる運動は歴史的営為なのです。

 

 

森教授の講演は以上です。

第1部はこのあと竹山市長との対談をおこないました。
対談の部分のついても後日、こちらでご紹介させていただく予定です。

 

森裕之教授

森裕之教授

 

 

 

 

 

 


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